TENT TALKEVENT in OSAKA【イベントレポート】
2025年9月14日(日)
自立分散型デザインイベント「DESIGN WEEKEND OSAKA」の開催に合わせて、VEILのトークショーを行いました。
当日の様子をできる限りそのままお伝えしたいと思います。
インタビュアー糸目(LEKT)
糸目:
本日はお越しいただきありがとうございます。 LEKTの糸目と申します。 LEKT開発担当の渡利と、TENTの竹下健さんとともに、TENTさんやVEILの開発、あと新作のお話をじっくりお届けできればと思います。
竹下さん(以下ケンケン):
TENTの竹下と申します。 普段、実は巷では「ケンケン」と言われてまして、竹下ではわからない人がたまにいるので「ケンケンです」というふうに名乗っておきます。 一旦そのぐらいの自己紹介で。
糸目:
ここで少し、LEKTについてご紹介させていただきます。 LEKTは、「使う人と共に考えながらプロダクトを作る」という思想のもと、主にカバンの開発を行っています。 具体的な人物や組織が本当に必要としているものや、実感から生まれるものづくりを大切にしています。 例えば直近では、サッカー選手と取り組んだ『スポーツを愛する人のための観戦リュック「TIES(タイズ)」』というバッグの開発を行いました。我々は 社内だけで企画を立ち上げ、開発するのではなく、外部の人と共同で開発を行います。そこでその人(組織)がどういったカバンが欲しいのかっていうことをできる限り純度を維持したまま、創り上げていくブランドです。
まずは、皆さんに向けてTENTさん、あとケンケンさんの事を知っていただこうかと思うのですが、TENTってどんなチームなんですか?
ケンケン:
はい、TENTは拠点が東京で、代表の青木と治田の2人が2011年に設立したプロダクトデザイン事務所になります。
「TENTの名前の由来って何ですか?」ってよく聞かれるんですけど、もともと2人は大手の家電メーカーの仕事をしていて、いわゆる家電とか電子機器、ちょっと“おじさんに好かれる”ようなプロダクトをたくさんデザインしてたんですね。
でも、もっと自分自身とか、家族とか、友達とか、そういう身近な人たちに日常的に使ってもらえるものを作りたいよねっていう話になって。それで一緒に会社を立ち上げた、という経緯があります。
家電のような、ビルみたいにガチッと固定された強さというよりは、テントみたいな、しなやかで軽やかな強さが欲しいよね、みたいな感覚もあって。それもあって「TENT」という名前にした、というのがあります。
あと、実は名刺が縦に折れるようになっていて、それを折るとテントの形になるっていう、ちょっとした仕掛けがあるんです。そのアイデアにも合っていたので、「TENT」という名前になった、という感じですね。
糸目:
TENTさんではトークショーに登壇しているは青木さんの印象が強いですが、ケンケンさんについても教えてください!
ケンケンさん:
TENT代表の青木が、すごく発信力のあるタイプで。 僕が今回みたいに前に出てきて喋るっていうことが、これまで全然なくて。TENTの竹下個人として、こういうトークイベントに参加するのは今日が初めてなんです。 やっぱり「TENTが前に出て話す」ってなると、基本的には青木さんが担当することが多くて、そういうスタンスでこれまではやってきたんです。
糸目:
そんなケンケンさんが、TENTに入社されたきっかけってどんな感じだったんですか?
ケンケン:
TENTに入った経緯で言うと、僕は福岡出身で、学生の頃からTENTのことがすごく好きで、よく見てたんです。で、卒業制作で開発したアイテムが、たまたま縁があってミラノサローネに出展されることになって。その会場の同じエリアで、偶然TENTのプロダクトも展示されてたんですよ。
僕はもうその時からTENTが大好きだったので、「あ、なんか縁があるのかも」って勝手に思ってました。
ただ、卒制をやりすぎちゃって、みんなが就活してる時に僕は何もしてなくて。そのまま就職しないまま卒業して、しばらくニートみたいな時期があったんです。
そんなタイミングで、ちょうどTENTが初めて人を募集してるっていう情報を見つけて、ここしかない!」と思って、すぐ応募しました。
糸目:
数多のライバルがいらっしゃったかと思うんですけど、青木さんや治田さんからそういったお話は聞きましたか?
ケンケン:
その時のTENTは、今ほど有名ではなかったんですけど、それでもやっぱり応募数は結構あったみたいでした。 僕が最初にインターンに行ってた時も、同じタイミングで応募した方とかは複数人いたんですけど、なんとか勝ち残っちゃったっていう感じですね。 もちろんデザイン面でのスキルを見て選んでくれたとこは多いとは思うんですけど、僕はその時に気遣いができるっていうスキルがすごいあったようで。 今なくなっちゃったんですけど。(笑) TENTがPOPUPイベントの準備をしてる時に、例えば治田さんがテーブルを持とうとしてる、持ち運ぼうとした時に、対面には僕がもうすでに持ってるみたいな、そういうちょっと気遣いができる動きができるっていうところで、そこのスキルを見てもらって採用いただいたみたいな感じですね。
糸目:
何気にめちゃくちゃ大切なスキルだと思います。
ケンケン:
その時は「骨抜きにされた」って言ってましたね(笑) もちろんきっとデザインのセンスも必要だとは思うんですけど、他のスキルもあればいいと思うので。 たまたま僕は人柄的にも合ってたっていうのとか、タイミングとかが色々あったんだと思います。
糸目:
そこから、ケンケンさんのプロダクト遍歴を辿ると「SAND IT」が初めて手がけられたプロダクトですか?開発秘話が書かれた青木さんのNOTEを拝見しまして。
ケンケン:
僕はそのNOTEの記事を忘れてるので、全然違うこと言っちゃうかもしれないんですけど。最初TENTに加入してすぐの時はデザインのスキルは足りてなかったので、全然デザインをしてなかったですね、1年とかは。 オンラインストアの発送とかばっかりやってたんですけど、それをやりながらアイデアもスケッチを貯めていて、ちょうどその文具メーカーさんからお声がかかった時に、実はこういうの考えててっていうのがあってお見せしたって感じですね。 「あ、そういうの持ってたんだ」みたいな。
糸目:
それは自ら提案した形で?
ケンケン:
そうですね、自ら提案しました。 最初に声がけいただいた文具メーカーさんからは採用されなかったんですけど、その次に他の文具メーカーさんからお声がかかって、その時に採用いただいて商品化してもらったっていう感じですね。
糸目:
今の話を聞いてびっくりした部分が、ケンケンさん自ら案を提案したっていう部分です。てっきり社内コンペ的なものが開催されているかと思ってたんです。 何か案件が来たり、TENT内でこういうものを作りたいって話が出た時って、どういう風にブレストをしていくんでしょう?
ケンケン:
その時は自ら提案したんですけど、結構社内コンペ的なことは普段やってます。 それぞれのアイデアの種を持ち寄って、こんなんどうすか?って提案しあって、「うーん」ってなる場合もあれば、「それいいじゃん、進めよう」って進んだり。
糸目:
その決定権は、なんとなくの雰囲気で?
ケンケン:
そこめっちゃよく聞かれるんですけど、あんまり誰かがGOをする、とかはなくて、結構雰囲気で決まっちゃいます。
糸目:
へえ!自ずと決まっていくんですね。それでもTENT内でもそれぞれの得意分野とかがあるかと思うんですけど、担当が決まったりするんでしょうか?
ケンケン:
TENTは今5人なんですけど、全員プロダクトデザイナーで、それぞれアイデアを考えて形にするスキルは持ってるんですけど、得意不得意は多少あって。 青木さんはコンセプトとかコミュニケーションを考えるのが強かったり、治田さんは造形的なことが得意だったりとか。 僕はどうビジュアルとして落とし込むか、写真やWebどうするかみたいなところが、最近わかった僕の得意能力なんだなって。 TENT内でもそれぞれの得意不得意は結構ありますね。
糸目:
1つのプロジェクトで「あなたはこの部分の担当ね」みたいに振り分けはあるんですか?
ケンケン:
基本的には、最初に社内コンペ的なことをして、採用案が決まったら、そのアイデアを考えた人が担当になるみたいな感じなんですね。 で、その担当者が大体フィニッシュまで持っていくので、担当になった人が写真撮影のプランとかWebどう作るかみたいなのもやるっていうスタンスです。
糸目:
まさにクリエイティブチームですね!最近そのアバウトのページで「クリエイティブチーム」っていう言葉に変わってたのを皆さんご存知ですかね?
ケンケン:
なかなか気づかないですよ(笑) そうです。前まで「デザインユニット」だったんですよね。
糸目:
それもメンバーが増えたりとかっていう変化ですか?
ケンケン:
2人の時はユニットって言ってたんですけど、5人になってユニットもちょっと違うかもなっていうので、探り探りチームにしたっていう感じですね。
糸目:
最近出た、TENTの新作についてもお話しいただけたら嬉しいんですけど。
ケンケン:
1番新しいので言うと、この「TOOL BOOK」っていうアイテムなんですけど、いわゆるブックエンドでして、この中にスペースがあるので、ブックエンドになりつつ、ちょっとした小物とかを中に入れることができますよって言ったアイテムですね。 これはもうめちゃくちゃ人気で、発表して4日でもう全部完売みたいな感じになっちゃって。
糸目:
えっ、4日で完売ですか!? それはすごい……!
TOOL BOOK(左)、BOOK YACHT(右)
ケンケン:
はい。 次のロットを今頑張って作ろうとしてるみたいな感じですね。 これが実は、ほんと変な経緯でできたアイテムで。 そこにもある「BOOK YACHT」っていうアイテムを元々発売してたんですけど、その発送を繰り返していく中で、角の部分がダンボールから出て製品自体が傷ついちゃうみたいなトラブルが起こったんですね。 それでパッケージを変えたんですけど、前使ってたパッケージ500個分ぐらいが全く使えない在庫ができちゃって、それがずっと事務所スペースを圧迫してたんです。 これなんとかしないとなって思ってたら、TENTの辻さんが、そのパッケージに入る商品を開発したっていう感じなんですよ。
糸目:
えー、それは想像してなかった展開ですね。 まさか余っていたパッケージがきっかけで、新しい商品が生まれるとは……!
ケンケン:
そうなんですよ。そのパッケージを活かすために生まれたっていう、ちょっと変わったアイテムで(笑)そんなアイテムがSNSで大バズりして、TENTとしてはホクホクです。 パッケージも捌ける、ようやくスペースが生まれる!っていう。こういったアプローチでの商品開発は初めてでしたね(笑)
糸目:
すごい面白いですね。話を聞いてるだけで、TENTの思考の柔軟さが伝わってきます。それではここからは、本日のメインテーマでもあるVEILの話に移らせていただきたいと思います。このプロジェクトがどういう経緯で始まったのか、改めて伺えますか?
ケンケン:
きっかけになってくると、元々は渡利さんからお声がけいただいてスタートしたみたいなところなので。
渡利:
そうですね。
ケンケン:
僕が加入する前にTENTと渡利さんが展示会でお会いして。
渡利:
2012、3年ぐらいの「エクストラプレビュー」っていう展示会でTENTさんも出展されてて。 その時青木さんが「おかえりロボ」というのを作ってて、僕が個人的にすごいそれが好きで。 それで、この「LEKT」っていうカバンブランド で、次に誰にお願いしようかって話になった時に、TENTさん今イケてるから一回アタックしようかなっていう感じで青木さんに連絡したんですよ。
ケンケン:
はい。
渡利:
そこで快諾いただいて、TENTの皆さんでアイデアを出し合っていただいて。 僕の方では、このアイデアを製品化する時にコストの面だったり、アイデアの再現度合いを鑑みて色々揉んでいくうちに、ケンケンさんの案がいいんじゃないの、みたいな感じでしたもんね。
ケンケン:
そうですね。この時も青木と治田と僕でアイデア出し合って、それぞれのサンプルを作ったんですよね。 物を見て、使ってみないと判断できないと思ってるので、試作を作っていただいて3つの試作を見た時に、このコアっていう硬いインナーバッグを、スキンっていうアウターのバッグに入れるっていう構成がいいなって。
その試作では、アウターのスキンはかなりふにゃふにゃの素材で作っていて、中のコアは最初はレザーだったんですよね。 そのふにゃふにゃの生地の中からレザーのガチっとした真面目なやつが出てくる異質な感じが面白くて。 ちょっと気が抜けたところから真面目なやつが出てくるみたいなところが良いよねって、このインナーバッグとアウターバッグっていうシステムの案に行き着いたっていう感じですね。
糸目:
そこから「洗える」っていう部分が、かなり特徴的な形になっていったのかなと思うんですけど。
ケンケン:
最初はほんと洗えるっていうテーマは全くなくて、試作を使いながら「洗えるじゃん!」ってなったのが面白いところなんですけど。
糸目:
当時その感染症が大流行してて、リュックにアルコールスプレーをかけていて。
ケンケン:
そうでした。 リュックも同じように、帰ったら絶対洗いたいよねっていうのがあって。 ちょうどこのコアとスキンっていう機構自体がそれにすごい適してて、普通のリュックはショルダーとかにウレタンが入ってるので洗いにくいんですけど、このペラペラのスキンと、しっかりしたクッションが入ったインナーが合わさることでリュックとして自立して、クッションにもなる。 それが洗えるっていうことと相性が良くて、「洗えるリュックってめっちゃいいじゃん!」みたいになりましたね。
糸目:
そこからショルダーもメッシュにするとか、洗うための色んな工夫が...。
ケンケン:
ある時、試作を最初ネットに入れて洗ってたんですけど、「あれ、これって裏返したらネットになるんじゃないかな?」って。 そこから、乾燥のためにウレタンをダブルラッセルに変更したり、僕たちTENTでは知見がない部分を渡利さんに提案いただいて一緒に開発が進んだって感じですね。 裏返した時にネットとして佇まいが見えるようにデザインを施したんですけど、結果的にそれが、軽いけど心もとないパッカブルのリュックと違って、ペラペラな印象もなくなり、体に当たる部分がすごい気持ちよくなったので、すごいうまいこと辻褄がどんどん噛み合っていっていきましたね。
糸目:
コンセプトがトントントンと固まっていくような。 実際に一緒に開発していると、ちゃんと試作を使ってるんだなっていうのが本当に実感していて。そういう部分が小さなヒントを見逃さない秘訣なんだろうなと思います。
ケンケン:
試すようにしてますね。洗濯が不可な防水生地を、洗濯してみていいですかって実際に回してみたり(笑) 使いながら気づくことがめちゃくちゃあると思ってるので、試作を使うっていうことは重要にしてます。
それこそ、側面にループの紐がついていて、それは僕が部屋でリュックを乾かす時にショルダーの部分をハンガーにかけてたんですけど、ポロって落ちちゃったりとか、ファスナーを開けた状態がみっともなくて。 ちゃんと洗って乾かすっていうところまでケアしたいなっていうところで、側面にループをつけたっていう。 それも試作を使ってる時に気づいたことですね。
糸目:
結構もう最終段階に近い部分で付け足された機能だったんですよね。
ケンケン:
もうほんと最後の最後で渡利さんに「ループってつけれますかね?」って。
渡利:
「いいよ」って。
ケンケン:
さりげないループですけど、そこがちょっとした特徴にはなってるっていうところは効いてきてるんじゃないかなと思ってます。
糸目:
VEILがどう生まれたのか、その背景をじっくり伺ってきましたが、、。
ここでそんなVEILに関する新たなお知らせがあります!
ケンケン:
VEILの新作のショルダーバッグというものが、新商品として追加されます。
糸目:
わあ。(拍手)
ケンケン:
(拍手)ありがとうございます。 これね。めちゃくちゃいいんですよ、本当に。1個前2個前のサンプルをずっと使ってて、めちゃくちゃいいのです。
糸目:
具体的に教えていただきたいです。
ケンケン:
もともとリュックを毎日使ってて、でもテンションを変えたい時があって。 平日はリュック、休日はショルダーに変えたいみたいな時もあったり、今日は電車移動だけど今日は自転車移動だから変えたいとか。 初期の時点で、コアっていうユニットは一つで、それを覆うスキンにラインナップがたくさん欲しいと思っていて。そうすることで洋服のアウターを着替えるみたいにバッグのアウター部分もどんどん着替えて、シーンに合わせて最適なバッグになると思ってたので、これがショルダーとして新たに追加されることで、またVEILとしてのシーンが変わってくると思うので、2個目としてすごい象徴的なアイテムになるんじゃないかなと思ってますね。
糸目:
もちろんVEILシリーズの共有であるインナーバッグが使えます。
ケンケン:
構造としては全く同じ構造を採用しています。 普段絶対に持ち物として持ってないと困ってしまうものを入れてて。 充電ケーブル、ハンドクリーム、リップクリーム、名刺とか、常に持ち運ぶメインとなるものをインナーバッグに入れていて、これを切り替えるだけでバッグが変わるので、そういう良さがVEILにはあると思ってて。
糸目:
私も毎日使ってるんですけど、仕事用のインナーバッグと休日用のインナーバッグを、入れ変えるだけで用途が変わるのが、なかなか便利で。
ケンケン:
そうですよね。 実はTENTの山根さんも、たまにリュック、たまにショルダーっていう生活をしてるんです。 それもヒントにありました。
糸目:
他のこだわりポイントはありますか?
ケンケン:
あとは、サイジングめちゃくちゃこだわりましたね。 VEILの企画が始まって、1番初期のアイデアから、リュックとトートを作りたいと考えてたんです。個人的な理由ですけど、トートにしちゃうと自転車に乗れなくなっちゃうんです(笑)
ただ今回このショルダーバッグは、トートにもなるように、ベルトの部分をかなり短い設定にしてるので、短めにしてもらえればトートになって、長めに設定するとショルダーになる。このサイズ感だったりベルトの長さはすごくこだわって作ったアイテムになります。
糸目:
なるほど、ありがとうございます。
そんなVEILの新作ショルダーバッグは、10月下旬に発売予定です。
今回のトークをきっかけに、皆さんにも手に取っていただける日を楽しみにしています。
ケンケン、渡利:
ありがとうございました!